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夾辺溝
砂漠の強制収容所 生存者の証言

趙旭(著/文 他) / 多田狷介(翻訳) / 劉燕子(解説)

発売: 中国書店

A5判  692ページ 並製
価格 6,930円 (消費税 630円)
ISBN978-4-86735-066-9 C0022
在庫あり

書店発売予定日 2026年09月15日
登録日 2026年07月20日

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解説

反右派運動で「右派」とされた知識人が収容された中国・甘粛省の強制労働収容所「夾辺溝」。生存者の証言から約3,000人が犠牲となった封印された悲劇を描く現代中国史の貴重な記録。映画『無言歌』の原点となった代表作、本邦初訳。

紹介

―― 歴史は消せても、記憶は消せない。

反右派運動の果てに砂漠の強制収容所へ送られた人々。飢餓と寒さのなかで命を落とした三〇〇〇人の運命を、生存者の証言によって甦らせる。中国現代史の封印された悲劇を描く渾身のドキュメント。ワン・ビン監督『無言歌』の原点の本邦初訳。

夾辺溝とは
1950年代後半から60年代にかけて中国甘粛省に設けられた強制労働収容所(労働教養農場)。反右派運動で「右派」とされた知識人らが収容され、多くが飢餓と寒さの中で命を落とした。

本書はその生存者の証言をもとに事件の実態を克明に描く。
ワン・ビン(王兵)監督は、生存者の証言をもとに2010年、劇映画『無言歌』(原作『夾辺溝』)をリリース。本書はその原点となる事件を世界に伝える、趙旭の代表作として高く評価されている。

■ 劉燕子解説「何故、今『夾辺溝』か?」より
「墓石は砕かれた。夾辺溝なんてなかった、そんな過去など忘れろというわけだ。歴史を守る必要などないってことだ。だが、歴史がなければ何が人間を人間たらしめているんだ?人間であることの意味はどこにあるんだ?」  これから反右派闘争や大躍進が非人間的であるだけでなく、その歴史の封印は人間としての存在の抹殺であり、中共は一度ならず二度三度と権力犯罪を行使したことが分かる。即ち、右派のレッテルによる冤罪、強制収容所における餓死、そして証拠隠滅である。

前書きなど

自序(要約)

一九五七年、「百花斉放・百家争鳴」の呼びかけに応じ、多くの知識人は祖国の未来を信じ、率直に意見を述べました。しかし、その言葉はやがて「右派」という烙印へと変わり、数十万人もの人々が政治的迫害を受け、強制収容所へ送られました。夾辺溝は、その悲劇を象徴する場所です。しかし、そこで起きたことは一地方の出来事ではなく、反右派運動、大躍進による大飢饉、そして文化大革命へと連なる、中国現代史最大の悲劇を映し出す縮図でもあります。

私は、この歴史を風化させてはならないとの思いから、一九八五年より生存者への聞き取りを始め、三十年近くにわたり証言を集めてきました。取材では幾度も涙を流し、飢餓と極寒、強制労働のなかで人間の尊厳が奪われ、朝に仲間を埋めた者が夕方には自ら埋められるという現実を知りました。一人ひとりの証言は異なりますが、そのすべてが歴史の真実を物語っています。私は、その声を後世へ伝えることこそ、自分に課せられた使命だと考えました。

私がこの本を書いたのは、憎しみを広げるためではありません。歴史の真実を記録し、犠牲となった人々の尊厳を回復し、未来の世代が同じ過ちを繰り返さないよう願うためです。歴史を顧みれば、権力への監視と抑制を欠いた政治体制、言論や報道の自由を奪う社会は、必ず国家と民族に深い災厄をもたらします。真実を語ることのできる社会、法が権力を制約する社会こそ、人々の自由と尊厳を守る礎であると、私は確信しています。

歴史は必ず一九五七年を記憶し、歴史は必ず夾辺溝を記憶するでしょう。私が願うのは、この本が犠牲者への鎮魂となり、未来の世代が自由と人間の尊厳を守るための一冊となることです。
二〇一四年四月十六日 蘭州

版元から一言

国際NGO「国境なき記者団」が発表した2026年の「報道の自由度ランキング」で、中国は調査対象180か国・地域中178位という極めて低い評価でした。言論と報道の自由が厳しく制限される現在の中国において、本書に収められた証言は、決して「半世紀前の歴史」として片付けられるものではありません。

反右派運動の犠牲者が送られた夾辺溝収容所の悲劇は、その後も繰り返されてきた政治的迫害や強制収容の歴史を考えるうえで重要な証言です。中国国内では、「反革命分子」とされた人々をはじめ、法輪功修練者、ウイグル族、チベット人などへの深刻な人権侵害が国際社会から繰り返し指摘されてきました。

本書は、国家権力が一人ひとりの尊厳をいかに奪い、人間を極限状態へ追い込んだのかを、生存者自身の肉声によって伝える第一級の証言記録です。現代中国を理解し、人権と自由の価値を改めて考えるための貴重な一冊として、多くの方々にお読みいただきたいと願っています。

また、日本には中国にルーツを持つ多くの人々が暮らし、学び、働いています。国籍や立場を超えて、この歴史の記憶と教訓を共有し、二度と同じ悲劇を繰り返さないための対話のきっかけとなることを、本書は願っています。

著者プロフィール

趙旭(チョウ キョク)
1954年生まれ。甘粛省積石山県の人。1985年、蘭州大学数学専攻卒業。2002年、蘭州大学大学院修士課程(現代中国文学専攻)修了。1980年代より全国の雑誌・新聞で小説、散文、評論、ルポルタージュなど四百編余りを発表。著書には、長編小説『風雪夾辺溝』(簡体字版は2002年、作家出版社より、繁体字版は2013年、台湾・秀威出版社より刊行)、『大飢饉』、『血恋』など、長編ノンフィクション『反右運動夾辺溝惨案倖存者証言』(2014年、台湾・新鋭文創/秀威出版社)、『土地改革から文化大革命まで──中国現代百名の知識人の受難』、『黄河の子──張心一伝』、『死の労働教養所・夾辺溝の生存者──農村教師王永興』など、中短編小説集『天劫』など多数。
多田狷介(タダ ケンスケ)
1938年-2024年。茨城県に生まれる。1968年東京教育大学文学研究科博士課程(東洋史学専攻)単位取得退学。日本女子大学名誉教授、公益財団法人東洋文庫研究員。著訳書に『中国彷徨──大陸・香港・台湾』(1995年、近代文藝社)、『漢魏晋史の研究』(1999年、汲古書院)、『わたしの中国──旅・人・書冊』(2006年、汲古書院)、『中国逍遥──『中論』・『人物志』訳註他』(2014年、汲古書院)、『雲南のタイ族──シプソンパンナー民族誌』(姚荷生原著、2004年、刀水書房)、『滄桑──中国共産党外伝』(暁剣原著、2010年、中国書店)、『騒土──文革初期、黄色い大地の農民群像』(老村原著、2019年、中国書店)等。
劉燕子(リュウ イエンズ)
現代中国文学者・詩人。中国・湖南省出身。神戸大学大学院で学術博士号を取得。現代中国文学・思想、中国近現代史を専門とし、大学で教鞭を執る傍ら日中両言語で執筆・翻訳活動を続ける。劉暁波、劉霞、黄翔らの作品紹介をはじめ、中国現代史、民主化運動、文化大革命、人権問題に関する著訳書・編著書を多数刊行。中国の知識人・亡命作家の思想と文学を日本に紹介し続けている。

上記内容は本書刊行時のものです。

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