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書評あり

 

松本清張はよみがえる
国民作家の名作への旅

文芸

酒井信(著/文 他)

発売: 西日本新聞社

四六判  224ページ 並製
定価 1,760円 (消費税 160円)
ISBN978-4-8167-1011-7 C0095
在庫あり

書店発売日 2024年02月29日
登録日 2024年01月10日

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書評情報

西日本新聞  朝刊

紹介

松本清張が亡くなって30年以上がたった今なお、作品に描かれた恨みや妬み、復讐心は特有の「まがまがしい魅力」を放つ。

気鋭の批評家、酒井信(明治大准教授)が、長・短編合わせて1000に及ぶ清張作品から代表作50編を取り上げ、現代の作家の筆致と比べながら、作品が有するリアリティーに迫っていく。

「或る『小倉日記』伝」では、森鷗外の足跡を追い求める登場人物の姿に西村賢太を重ね、長編の代表作「眼の壁」からは村上春樹の作品との共通項を見いだす。

ピックアップした1950~90年代の代表作を年代ごとに収め、作品の舞台が一覧できる地図や現代作家との相関図も掲載。清張作品の入門書やガイドブックとしても活用できる。

平成不況や令和のコロナ禍を通して、都市と地方あるいは所得の格差が広がり続ける今、清張の作品から学ぶことは思いのほか多い。

目次

3P はじめに
 
11P 1章 1950年代

12P 西郷札
16P 或る「小倉日記」伝
20P 菊枕
24P 父系の指
28P 張込み
32P 顔
36P 共犯者
40P 小説日本芸譚
44P 点と線
48P 一年半待て
52P 地方紙を買う女
56P 鬼畜
60P 眼の壁
64P 無宿人別帳
68P 黒地の絵
72P ゼロの焦点
76P 黒い画集 遭難
80P 小説帝銀事件
84P 波の塔
88P 歪んだ複写
92P 霧の旗
96P 天城越え
100P 黒い福音

105P 2章 1960年代

106P 日本の黒い霧 下山国鉄総裁謀殺論
110P 日本の黒い霧 追放とレッド・パージ
114P 球形の荒野
118P わるいやつら
122P 砂の器
126P 影の車
130P 連環
134P 時間の習俗
138P けものみち
142P 北の詩人
146P 花実のない森
150P 陸行水行
154P 絢爛たる流離
158P 半生の記
162P 昭和史発掘 芥川龍之介の死
166P 昭和史発掘 三・一五共産党検挙
170P 砂漠の塩
174P Dの複合
178P 内海の輪

183P 3章 1970年代

184P 黒の図説Ⅱ 遠い接近
188P馬を売る女
192P 空の城
196P 黒革の手帖
200P ペルセポリスから飛鳥へ

205P 4章 1980~1990年代

206P 骨壺の風景
210P 疑惑
214P 神々の乱心

218P 松本清張の代表作と類似した作風・題材を持つ現代小説等の一覧
220P おわりに

前書きなど

 松本清張の生き方に励まされる人は多いのではないだろうか。清張が描いた登場人物たちが内に抱える、恨みや妬み、復讐心に共感を覚える人も多いと思う。
 平成不況と令和のコロナ禍を通して、所得や資産、教育や情報、居住地や家庭環境の格差が広がってきた。オンラインの世界では、人々の「怒り」や「怨嗟」、「嫉妬」の感情が吹き荒れ、週刊誌を開き、様々な記事の背後にある「人間臭い動機」に目を向ければ、「清張的な事件」が現代日本でも数多く報じられていることが分かる。
 作家の松本清張(1909~92)が亡くなって30年以上の時が流れた。41年ほどの作家生活で長・短編合わせて1000に及ぶ作品を手がけた清張が繰り返し描いたように、私たちは「生まれや育ち」で、その後の人生が左右される「不公平な時代」を生きている。
 この本では清張が残した著作から50の代表作を取り上げ、現代の作家の筆致と比べながら、清張作品が持つ「リアリティ」や「まがまがしい魅力」に迫っていく。
 松本清張のミステリには「名探偵」は登場しない。新聞記者、ベテラン刑事、被害者の友人や親族など、どこにでもいるような無名の人物たちが「泥臭い捜査を行う探偵役」になる。事件に巻き込まれたごく普通の人々が、「足で稼いだ情報」を手掛かりにして、日常の中に潜む「ミステリ」をひも解いていくのだ。
 清張作品の魅力は、多様な女性の内面に迫る筆致にもある。清張は「婦人公論」などの連載を通して女性読者を多く獲得していたが、一見すると社会に適応しているように見えて、一皮むくと社会から逸脱した欲望を内に抱える女性を描くのが上手い。岩下志麻や松坂慶子、名取裕子や米倉涼子など、清張原作の映像作品は数多くの大女優を育てた。
 松本清張は貧しい家庭で生まれ育ち、高等小学校卒の学歴で印刷画工として働き、41歳で作家となった。まぎれもなく彼は「叩き上げの作家」であり「立志伝中の人物」であった。清張はミステリ小説に限らず、純文学、時代小説、戦後日本の闇を暴くノンフィクション、考古学の知見を踏まえた論考など、ジャンルを超えて数多くの作品を記し、『砂の器』、『点と線』、『ゼロの焦点』など数多くのベストセラーを世に送り出した。
 執筆の方法も独特で、他の作家にもまして編集者に「感想」を求め、様々な専門家に電話で「取材」を重ね、一般に出回らない警察や官庁などの資料をかき集め、印刷画工時代から愛用している製図台の上で、小説を記した。晩年には、考古学への愛が高じて「邪馬台国九州説」を背負う存在にもなった。
 紛れもなく松本清張は、戦後日本を代表するベストセラー作家であり、映像メディアの世界にも巨大な足跡を残した国民作家でもあった。映画化された作品が40本弱、ドラマ化された作品は無数にあり、放送回数は千回をゆうに超える。「張込み」、「一年半待て」、「霧の旗」、「天城越え」、「わるいやつら」、「黒革の手帖」など、それぞれの映像作品が、時間を経ても変化しない人間の欲望や感情を、巧みにとらえている。
 
 41歳で作家としてデビューし、46歳で専業作家となった清張のバイタリティに学ぶことは多い。清張の妻・直子の回想によると、彼は「とにかく仕事が好きで、時間があれば何かやっていました。努力家というか、勉強家というか、子どもたちとのんびりはしゃいだり、何も考えないでぼんやりするなんていうことはまずありません。書くことでも英語の勉強でも、やりたいことをやって、それがまた、いい方にいい方に向くんです」⑴と述べている。たとえば清張が英語を独学で勉強し始めたのは、戦時中に朝鮮半島に滞在していた時で、苦しい状況でも前向きに生きる彼の姿に頭が下がる思いがする。
 本書は新聞連載をもとにしていることもあり、清張作品をどのように読んでいいか分からない読者に向けた「入門書」という性格も持つ。作品の主な舞台となった場所(推定を含む)も付記しているので、清張作品の「聖地巡礼本」という性格も有している。この本の批評を通して、松本清張という稀代の大作家への関心を拡げてもらえれば嬉しい。
⑴ 松本直子「『俺は命の恩人だぞ』と妻に言っていた」「文藝春秋」文藝春秋、1998年2月号

著者プロフィール

酒井信(サカイマコト)
1977年、長崎市生まれ。明治大学准教授。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学助教、文教大学准教授を経て現職。
専門は文芸批評・メディア文化論。著書に『現代文学風土記』『吉田修一論 現代小説の風土と訛り』『メディア・リテラシーを高めるための文章演習』など。

上記内容は本書刊行時のものです。

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