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それぞれの居場所から

2021年7月1日

 

古小烏舎 野村亮

 

片付けの最中に思わぬ掘り出し物? が見つかり作業が遅々として進まないのはいつものことだが、先日も一通の封書に手がとまりしばし感慨にひたった。石風社の福元満治さんからのもので、かれこれ20年近く前、あこがれ続けた福岡の出版の世界に行く決心をし、思いが強すぎて濁りまくった入社希望の手紙への短い返信で、その時は叶わなかったが添えられた励ましの言葉がうれしかった。

福岡の出版人たちの、いわゆる地方出版という枠では到底収まりきれない仕事に心惹かれ、自分もああなりたいと思った。各社小さな所帯で営んでいるので入り込むのは難しかったが、福元さんはじめ、海鳥社の西さん、書肆侃侃房の田島さんなど皆さん親身に接してくれ、紆余曲折あって、幸運(最高の!)にも弦書房の故・三原社長に拾われ念願叶った(最初にかけてもらった言葉は「地獄へようこそ!」だった)。

三原社長の跡を継いだ小野さんに見守られながら、板前さんが一人前になっていくように、出版人として鍛えられ、また、社の垣根を超えて、来る者は拒まず人を育ててくれる土壌がこの地にあったおかげで、ついには出版社をはじめるまでに至る。自分で出版社をやるなんてまったく考えもしなかったが、福岡の出版人の生き様にあこがれてこの世界に飛び込んだのだから、ひょっとしたらこうなることは最初から決まっていたのかもしれない。開業の時もたくさんの先輩たちにお祝い(心配?)してもらい、創業から丸二年が過ぎた(みなさんありがとうございます)。

自分の実力はわからないが、なんとかこうしてやれているのは、絶妙な距離感でもって、足ではなく手を引っ張るという土壌があったことが大きい。その繋がりを形にしてくれているのが忘羊社の藤村さんで、ミニコミ紙「博多版元新聞」にはじまり、さらに書店そして街をも巻き込んでの本のイベント「ブックオカ」を有志らと立ち上げ、その番頭として切り盛りしている。そして今回、小さな出版社の心強い味方である版元ドットコムの強力なバックアップのもと、九州・沖縄を拠点にする出版社の仲間たちでこの新しい取り組みがはじまった。本にまつわる様々な話題をはじめ、本が生まれるフィールド、根を張る街などについて、それぞれの居場所からメッセージを届けたい。

まだはじまったばかりだが、新しい仲間、若い人たちと新しいことにチャレンジできることが刺激的でなにより楽しく、これからどんどん面白いことに取り組んで育てていきたい。できれば「これから」の人たちに、この世界で生きるのもわるくないと思ってもらえると本望だ。

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