2021年8月10日
忘羊社・藤村興晴
今夏で創業9年目を迎えた。ちょうどそんなタイミングで、第34回地方出版文化賞(ブックインとっとり主催)で『海の上の建築革命〜近代の相克が生んだ超技師の未来都市〈軍艦島〉』(中村享一著)が奨励賞に決まったとの知らせを受ける。新型コロナ2年めを迎え、新刊予約が目に見えて減っていたのでかなりヘコんでいたのだけれど、おかげで気分が持ち直した。この話題をどう販売につなげていくか。あとは自分の努力次第だ。
もう20年以上も前から、出版・書店業界は、長い長い下り坂が続いている。こんな時代に創業したのは何か自信や根拠があったのだろうと思われるかもしれないが、そんなものはケシ粒ほどもなかったし、いまだに月末が近づいてくるとヒヤヒヤする。昨今は「ひとり出版社」なんて言い方で持ち上げられることも多いけれど、その内実たるや「ひとりブラック企業」である。養うべき社員はいないのでストレスは限りなくフリーに近いが、代わりにプレッシャーが100倍。自営業者の常なんだけれど。
丸8年で30点ほどの自社本と、大小含め80点ほどの請負い仕事をしてきた。その合間に、もはやライフワークとなった「ブックオカ」の事務方をやらせてもらっている。先回の古小烏舎さんのコラムでも触れていただいたが、これはもともと、「はかた版元(はんもと)新聞」という地元出版社合同のフリペの編集実務をやっていたときの取材が縁で、2001年に開業されたブックスキューブリックの大井実店主と意気投合して始めた福岡の本のお祭りである。早いもので、立ち上げて16年。毎年秋の約1ヶ月間、市内の書店やカフェなど各所で街と本をつなぐさまざまなイベントを催しているのだが、ここで知り合った人たちの縁がまた広がって、この度「版元ドットコム九州」の屋号で、こんなサイトを立ち上げることになった。掲載されているのは福岡、宮崎、鹿児島など「版元ドットコム」加盟社のうち九州の出版社の書誌情報と、各種SNSと連動したショート・コラム。書誌情報は本丸サイトのデータを転載させてもらっているのだが、コラムのほうはオリジナル。特に福岡は他の地方都市と比べて出版社の数も多く、出版物もバラエティに富んでいる。どこも小さな所帯ばかりだが、物・情報の流通事情において連帯できる要素が多いし、書店には地元本のフェアの企画の参考にしてもらえるような一覧注文書や地方出版社の楽屋話を伝える動画配信など、やりたいことはたくさんあって、まだまだ退屈しそうもない。