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Keep your head, above the water

2021年9月13日

 

木星舎 古野たづ子

 

福岡の版元が集まって年に数回出していた「はかた版元新聞」。そこに新米版元としての記事を書いたことがありました。あの頃から藤村さんに全部お任せで、石風社で出荷作業を少し手伝い、それから飲み会、遅い独立が不安でしたが、彼らの中にいるとなんとかなりそうに思えました。

父の公団アパートの一室を借りて出版事務所を開いたのが2001年、ミレニアムの年。NYの貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ年、そして介護保険が施行された年。

なんの基盤ももたずに出版事務所を開いた私がにぎっていたのは、「緩和ケア」。強引に生かす医療から避けられない死と闘わず、緩やかに受け入れる医療に目が向けられ、日本の医療は、病院から在宅に大きく舵を切りました。私はその流れの中で本をつくり、そこで緩和ケアや在宅医療に取り組む医師や看護師、心理士をはじめ、多くの前線に立って働く人と出会い、彼らを敬愛し、時に語り合い、時に酒を飲みながら、本をつくった。彼らの活動に役立つ本を出したいと思いました。

今年出した『ともにある 6』は、由布院の小さな宿で開かれるスーパーバイズの緊密な時間の記録。目前に迫る死を見つめる人の傍で、最期までともにある心理士の魂が参加者と共鳴し合う場に、幸運にも毎年のように参加し、それを、そのまま写したいと思いました。20年でやっと6冊。

この20年、高齢社会が急速に進み、私自身が高齢者となり、4人の父母を看取り、一歳下の親友が逝き、従弟が逝きました。医療から介護により深く関心が向くようになりました。

宮崎発祥のホームホスピス活動、民家を借りて認知症やがん末期など困難な条件を抱える人を暮らしの中に迎え、最期まで生きることを支援する取り組み、全国に広がる彼らの活動のすぐ傍らでレポートしながら出版してきました。でも今、その目覚ましい邁進が少し眩しくなってきました。

私は出版を業とする編集者、看護師でも介護士でもボランティアでもない。当たり前ですが、どの場所にいても当事者ではないのです。

人とのつながりの中でしか本を出せないのかなあ、そう思うと少し落ち込みます。流れから目をそらすと、いつか出したいと思っていた本が高みで微笑んでいます。『国東六郷満山』はそんな中で手を伸ばすことができた本です。のぶ工房の遠藤さんが写真を撮ってくれました。ありがとう!

Keep your head, above the water=漂えど沈まず、開高健の名訳、ずっとその状態をキープしてきたけれど……。いつか水面に首を長く出して、大きく呼吸したい! 間に合うかしら。

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