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最先端の研究を市民の手元に

2023年11月27日
 
公益社団法人福岡県人権研究所 代表者 新谷恭明
 
公益社団法人福岡県人権研究所は出版社なのかというと、そこは微妙である。前身は福岡部落史研究会といって福岡県、福岡市、北九州市から補助金を受けてきた研究団体で、2000年には部落史研究の実績に対して西日本文化賞を受賞している。それはともかく、部落史のみに拘泥せず人権研究のウィングを広げようという志で福岡県人権研究所と改称し、機関誌も『部落解放史ふくおか』から『リベラシオン』へと改題していくつかの事業のうちの一つとして出版事業に取り組んでいる。
研究所という大仰な名称なので、難解な学術研究をしているのか、それとも総会屋もどきの怪しげな活動をしているのかと思われるかもしれない。まずは福岡県や福岡市、北九州市の支援を得ていることで怪しい団体ではないことは証明されると思う。
人権研究が難解かどうかはいったんおくとして、私たちの役割は先端の人権研究の成果を広く市民に周知していくことにあると考えている。
部落史研究会時代は『部落解放史ふくおか』という雑誌を刊行することを研究会としてのメインの仕事としていた。この『部落解放史ふくおか』から多くの新しい部落史の知見が生み出された。まさしく部落史研究を志す碩学の集うところであった。そして、その成果は各学校で実施される部落史の授業に反映されるという教育とのつながりも大きかったように思う。ある時期までは県内の各学校には必ず『部落解放史ふくおか』が一冊おいてあったと記憶している。僕自身もPTAの役員をしていた頃に職員室にあった『部落解放史ふくおか』を囲んで先生たちと語り合った記憶がある。
時の流れの中でそのような殿様商売もうまくいかなくなった。殿様商売と言ったのは、税金で本を作り、税金で買い取ってもらったところで、市民の手には届かないというジレンマを思うてのことである。ならば、直接市民の手に届ける出版活動をしなくてはならないと、この版元ドットコムにも参加させてもらうことにした。
そして、久米祐子著『子どもから障害児を「分けない教育」の戦後史―インクルーシブ教育とは―』を刊行させていただいた。これは久米祐子氏が九州大学に提出した学位論文をなるべくわかりやすく書き直していただいたものである。いわゆるインクルーシブ教育が戦後教育史の中にどういう根っこを持っていたかという研究であって、現在の特別支援教育のあり方にいろんな意味で警鐘を与えるものだと言える著作である。これまでの障害児教育史に対する強い批判も含んでいる。どこかの政治的風潮に乗っかっての議論ではなくて、こうした学術的な研究を広く関係者に届けたいという私たちの願いのこもった出版であった。
で、関儀久著『感染症と部落問題 近代都市のコレラ体験』は部落史研究会以来の部落史研究の本道をいくものであるが、明治期の福岡市におけるコレラ体験を通して実は部落差別の発生とありようを解明したもので、近代部落史の分野では画期的な研究と位置づけてもいいと思える本に仕上げた。一部では批判もあるようだけれど、史料なども多くの読者にわかりやすいように噛み砕いて載せてもらった。
これからも最先端の人権研究の成果を一人でも多くの人に届ける、そういう仕事をしていきたいと考えている。
 
 


 
 

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