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変わり続ける福岡

2022年5月9日

 

海鳥社 杉本雅子

 

昭和から平成に変わる頃、海鳥社では『大名界隈誌』を刊行した。著者は柳猛直氏と財部一雄氏。柳さんは大名生まれの元福岡日々新聞の記者で、1946年の創立とともにフクニチ新聞社に移られ、「夕刊フクニチ」で「サザエさん」の連載が始まった時に在籍されていた。

『大名界隈誌』のあと、柳さんの『福岡歴史探訪』シリーズを制作していたこともあり、よく事務所に来られていた。
柳さんは来社のたびに、海鳥社に入社したばかりで福岡のことを何も知らない私に福岡の話をしてくださった。ある時はエルドラドとしての福岡、ある時は捲土重来の地としての福岡、美人伝説、怖い話、人物伝等々、「今日は幽霊の話をしましょうか」といった具合で、話のテーマが尽きることはなかった。当時の私は無知を隠すこともせず、そうなんですか、おもしろいですね、へえ~などと、お気楽に相づちを打っていた。小柄な紳士であった柳さんは福岡の通人で、現場を歩いて考えてきた人の生の言葉でお話しくださった。そうやって私はこの地のおもしろさを少しずつ理解していった。
文献や歴史研究の成果を咀嚼し、それを多くの人に分かりやすい自分の言葉で伝えてこられた方だからこその話だった、と今は思う。なんと贅沢な時間であったことか。

この街で働くようになって30年以上がすぎた。その間、福岡はずっと変わり続け、今も変わろうとしている。しかし、それ以前からこの町はずっと変化し続けてきたことを柳さんから教わった。今、柳さんの著書を読み返しても、軽妙洒脱な文章の中に批判精神も見え、クスリと笑ってしまう。今こそ柳さんに執筆していただきたいと思うテーマがたくさんある。
今後、福岡はどのような街になるのか。その変化を後の人々はどのように語り、記録するのだろう。
企業も、町も、人も存続するためには変わり続けなければいけない。時代の変化の速度が増すなか、地方の出版社のあり方も変わってくると思う。しかし、福岡のことを知りたいと思う人に、この土地や先人への敬意をもって作った本を手渡していけたらと思う。

 

 

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