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極めて特殊な出版社かもしれない

2023年5月24日

 

行舟文化 代表者・周燁

 

2017年に行舟文化を創立した。海外の大手出版社が日本で支社や事務所を設置するケースは少なくないが、一人の外国人が日本で独立系出版社を経営することは珍しいだろう。

2002年に来日してから、2014年までの十数年は、日本のミステリを読んだり、中国語で書評を書いて中国のミステリファンに紹介したりしていただけで、ほかに何ができるか漠然と考えたことはあっても、結局何もできないでいた。

しかし、2014年に若い仲間たちとの出会いで状況がガラッと変わった。その年、中国ミステリ研究家・阿井幸作氏のご紹介で、ワセダミステリ・クラブの中国ミステリ愛好家たち(のちに彼らは「風狂奇談倶楽部」という同人サークルを結成した)と知り合い、日本にも中国ミステリに注目してくれる人がいるのだと分かった。2015年、「風狂奇談倶楽部」は『現代華文ミステリガイド』シリーズを作ったが、その同人誌に私も二回、日本語で中国ミステリの紹介文を寄稿した。日本語で評論やレビューを書くなんて、以前なら夢にも思わなかったことで、その勇気を与えてくれたのはまさに彼らなのだ。

そして2017年6月、「あらゆる場でいくら中国ミステリを紹介したとしても、作品自体を読んでもらわなければ、その魅力を正しく理解してもらえるはずがない。紹介のみにとどまらず、本当に面白い作品を、日本の読者の皆様に『実際にお読みいただける形で』お届けしたい」と考え、当時同人誌の編集しか経験のなかった、日本の出版業界にほぼ無知な私が、無謀にも行舟文化を起業した。

いや、無謀では決してなかった。彼らはきっと仲間になってくれると信じているから起業したわけだ。現に、彼らのおかげさまで行舟文化はやっとここまで来たのだ。編集、校正、企画、業界知識の教示など、本当に出して恥ずかしいほどの報酬しか支払えないにもかかわらず、何もかも協力してくださる。また、AMAZONでしか販売できなかった時期に丸善ジュンク堂書店と取引できるように尽力してくださったジュンク堂大阪本店の店長さん、解説・推薦コメント・対談イベントの依頼を快諾してくださった先生方、メディアで弊社の本を取り上げて紹介してくださった評論家の方々、年末のランキングで投票してくださった業界の方々にも、本当に心より感謝している。その方々がいなければ、今の行舟文化もない、今の自分もないと言っても過言ではない。

外国人として日本で暮らしている20年、ひどい目に合わされたことも当然あったし、昔の職場で差別されたことさえあった。しかし、創業してからそんなことは一つもなく、皆に親切にしていただいており、常に温かい目線を感じている。そういう意味でも行舟文化は極めて「特殊」なのだろう。その「特殊」は日本出版業界の方々と読者の皆様のやさしい心から来たものだと考える。

行舟文化も業界の不景気に苦戦している。成功して喜ぶ時もあれば、泣かされるほど苦しい時期もある。むしろ後者の方が多かったかもしれない。それでも、この業界に入ってよかったと今でも思っている。

 

 

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